えひめ地域鳥獣管理専門員/砂古直美さん(愛媛県八幡浜支局地域農業育成室大洲農業指導班)
普及指導員として大洲農業指導班に赴任して4年。大洲肱川町の6次産業化支援業務と並行して日常的に関わっていた鳥獣害対策業務から、さらに一歩踏み込んだのが「えひめ鳥獣害管理専門員」という資格です。
鳥獣管理専門員は捕獲そのものに携わる仕事と思われがちですが、砂古さんは狩猟免許は持っていません。「わなを仕掛ければその管理をしなければなりませんし、とどめを刺す責任も持つべきだと思います。今は地域の皆さんとどのような対策を取ればいいかを考え、提案することです」とご自身の立場を説明していただきました。
この日は地元の「内山猟友会」のメンバーと共に、センサーカメラのチェックのため山へ入ったところ、20kgほどのイノシシが箱わなにかかっていました。
内山猟友会は会員約190名で7つの支部があり、そのうち大瀬支部は地元農家を中心とした34名で構成。鳥獣管理専門員の講習カリキュラムでもお世話になったみなさんです。大瀬は農地面積も広く、柑橘、柿、葡萄など被害額も多い地域です。イノシシの他、アナグマ、ハクビシンも多く、干した柿だけでなく倉庫に侵入して貯蔵したみかんの皮を剥いて食べられることも。
メンバーの福岡さんは6~7年前から駆除活動をはじめ、近隣地域からも被害が減ったと言われるようになったとのことです。
砂古さんは猟友会向けの講習を積極的に行っています。捕獲技術そのものには長年の経験、情報の蓄積があっても、罠のそばで実際にどんなことが起こっているのか見たことがない猟師がほとんど。カメラの映像を確認することで、意外な盲点やきっかけが見つかるといいます。
電気柵にはお尻からゆっくり進入すると言われていましたが、カメラには頭からなんの躊躇もなく突破している姿が映っていたり、人間の思惑とはまったく違う動きだと分かってきました。群れの数や家族構成、行動の流れを確認することで「檻に誘導するラインは合っているが角度を少し変えてみようとか、位置を手前にずらしてはどうかとか。場合によっては一時的に罠の数を増そうかなど、細かい検討ができるようになりました。」
農業者だけでなく地域住民が柵など作りたい場合は補助金を利用するため市町の農林部局へ相談したり、業者や普及指導員など地域でも知識のある人を頼っていました、知事から認定された鳥獣管理専門員は、包括的に指導できる立場として相談窓口にもなります。
「これまでは見た目の被害だけで採択されていた場所や、効果の低い防護柵も多かったので、ここを通すならこちらの方が後々の管理が楽だとか、作物を1本減らしてもここを通せば効率的な防護ができるなど専門的な知識を投入していく必要を感じています。」
全てを事前にチェックをすることは難しくても、鳥獣管理専門員として学んだ理屈やセオリーを生かして、目的は柵を立てることではなく、「やるなら突破されない柵を立てること」が重要だといいます。業務的な負担は大きくても、時間を作って研修会を行ったり、積極的に自治体の座談会などに出向いて情報提供するようにしているとのことです。
この地区のICT遠隔監視型捕獲檻ハンティングマスターは、今年8月に3回目の移動をしました。最初は捕獲ゼロでしたが、移動ごとに捕獲数が伸びています。もちろん設置には伐採や長期の餌付けなどそれなりのコストはかかるものの、福岡さんは「砂古さんの言う通りにしたら捕獲数が増えた!」と喜んでいます。
「自分たち地元の猟師の方がもちろん知識はあるが、こういうハイテクを使ってイノシシの行動を見ることで、罠の位置を変えたり、新たに檻を設置したりと、ちょっとしたコツで1頭が10頭になるんはすごい。捕れるようになると、活動も活発になって、結果的に実績も上がる。猟友会でも頼りにしていて、学ぶ機会が増えればもっと捕れるようになると思うんよ。一緒に活動していても砂古さんは男より度胸が据わっとる!」と頼りにしています。
福岡さんによると「今後の被害拡大を考えると、情報はもっともっと欲しい。今のままでは不安が大きい」といいます。異動で担当が変わっても、重点地区なので指導者は必ず来てくれると思っているが、鳥獣管理専門員の資格者とは限らないため、各地方局に配置となれば理想的な体制になるとの期待を寄せています。