愛媛県農林水産部農産園芸課

『愛南ジビエ猪鹿家』南宇和郡愛南町

 ジビエファイル  2020年10月10日

愛媛の最南端に位置する愛南町は、足摺宇和海国立公園を有する美しいリアス式海岸のイメージから、カツオやブリ、牡蠣や真珠母貝などの水産養殖業が盛んですが、旧御荘町を中心とした山間部では晩柑類の栽培も広く行われています。豊かな自然に囲まれた環境ゆえ、鳥獣被害も多かったこの地域に初めて誕生した解体処理施設が「愛南ジビエ猪鹿家」です。

母体は2016年に発足した地域おこし団体「まるごと緑」。「まるごと緑」は城辺地域の緑公民館を拠点として、住民有志が地域の存続と発展的な人づくりを目指してさまざまな活動を行っており、会長の木村俊介さん、事務局長の森裕之さんを中心に愛南ジビエ事業に着手しました。

現在は空家となっていた地元の建設会社の事務所を、同地区内で媛っこ地鶏の飼育販売を行う法人とシェアして賃借し、解体処理施設を開設。必要な設備の一部は「愛媛グローカルビジネス創出支援事業費補助金」を活用して導入し、さまざまな精肉販売に対応できるよう進めてきました。

年々増加している愛南町内での害獣捕獲頭数は2019年度でイノシシ約1100頭、シカ約1500頭にのぼり、地元猟友会から1日あたり2~3頭を受け入れていく予定です。
解体作業は木村さんと木村さんの息子さんが担当しており、1月あたり25頭以上の解体を目指しています。
捌き方は、まず65度のお湯をかけて毛根から毛をきれいに抜いた後、内臓を取り出すという地元の猟師仲間の間で伝承されてきた方法を採用しており、「お湯の温度が高すぎると毛根が締まってしまい、ぬるいと毛穴が広がらずに抜けない。大きな個体の場合は少し高めに調整します。」と、自身も猟師として活躍している木村さんの長年の経験が活かされています。

山間地では柑橘や田畑の中でも特に山芋の食害が目立ち、海側ではカニなどを食べることもあると言われており「魚介よりは柑橘を食べたイノシシの方が肥りがよく身も柔らかい」とのこと。真空冷凍された肉は町内や宇和島市内の飲食店へ出荷。当面は在庫を持たず、販路開拓を同時進行させていく予定で、今後はネット通販などの小売も視野に入れながら、用途に応じたラインナップを目指しています。
木村さんは鹿肉の需要を感じており「イノシシとシカをセットにしたものがふるさと納税の返礼品に採用されれば、水産物、柑橘と並ぶ、地域の新しい産品になる」と期待を持っています。

森さんが管理する加工場そばにある160坪の民家は、宿泊施設としても利用できることから、これまでもさまざまな地域人材育成のワークショップや交流体験プログラムを実施してきました。今後は狩猟体験や解体作業への参加など、ジビエ事業にかかわるコンテンツを広げていく計画で、将来的には移住促進につながる企画を進めていきたいとのこと。

森さん自身も関東出身で、同町の地域おこし協力隊を経てこの地域の魅力を十分に理解していることから、実現に向けた手ごたえを感じています。解体処理施設の稼動がさらなる追い風となることでしょう。