妥協しない品質基準で愛媛ジビエを高めたい
※本文中に害獣の解体作業に関わる画像、映像がありますのでご注意下さい。
↓処理施設の解体技術とこだわりを動画でご紹介しています。
町が抱える鳥獣害被害についての様々な問題をワンストップで解決するための「エキスパート会社」として誕生した森の息吹は、常に集落との連携を考え、地域にとっての最善の方法を探りながらの施設運営を行っています。施設長の森下孔明さんは飲食店経営などを経て、今この大きな森と対峙しています。
他の市町と同じく松野町でも鳥獣被害が増えており、地元の猟友会による駆除に頼っていましたが、メンバーの高齢化や後継者不足に加え、捕獲後の処理場所も十分に確保できない状況が続き、被害減少には繋がりませんでした。そこで、行政、猟友会、農家さんたちが連携し、駆除や処理に関わる専門組織を立ち上げ、駆除するだけでなく食肉として活用できるような形を作ろうということをきっかけに、平成26年に設立された加工施設です。
松野町ではイノシシやサルの被害もありますが、全体の9割がシカ(ニホンジカ)とのこと。シカは森の木の芽などを食べますが、果樹にとっては甚大な被害となりますので集落にとっては非常に深刻な問題です。年間の平均処理頭数は約400頭とのことですが、荷受しても状態の悪いものは解体処理しないこともあり、実際に捕獲されている数はその2倍以上だと思われます。
搬入は主に地元の松野猟友会のメンバー約60名で、設立前からこの施設とは密接な関わりがあります。70~80代の熟練者に加え、近年は40代の若手ハンターも育っています。この日朝捕れた鹿を3頭搬入した松野猟友会の竹本吉雄会長によると、猟友会の活躍で農家さんからは獣害が軽減したという声が入っているとのことです。
この施設の特長は「チルド出荷」へのこだわりです。
冷凍でストックしない出荷形態は納品日の指定が受けられず、取引先との連絡を密に取り合っていないと難しいのですが、「良いものが入った段階で出荷する」という信頼関係の下で行っています。捕獲、解体したものをできるだけ早く振り分け、全体のほぼ8割をチルド出荷しています。
出荷先は主に東京大阪を中心とした県外の飲食店で洋食、和食が主。近年は中華料理のお店も増えており、施設長の営業努力もあり、県内のホテルや飲食店さんとの取引も徐々に増えています。紹介を受けたお店には自ら出向き、まずは料理長等としっかりと打ち合わせをするそうで、自身のこだわりをアピールすると同時に、ジビエ肉ならではのさまざまな問題への理解を求めています。
この施設のもうひとつのこだわりは「精肉精度の高さ」といえます。特にモモやロースについては実際の取引先からも高い評価を得ているそうで、通常は5~6割と言われる歩留まりが、森の息吹では8割以上。形がよくて使いやすく、捨てるところがないという評価が多く、リピートに繋がっているとのこと。
もともとジビエ肉はスキルのある熟練の料理人が扱う食材で、若い職人にはハードルが高いもの。また骨抜きなどの解体はもちろん、ブロック肉の下処理ができないパートさんが働く厨房も少なくない昨今では、お店側にとっても手間が省け、かなりメリットが高いといえます。
一方で、出荷する側がしっかりと「手間をかける」ことで、商品の付加価値をぐんと上げてきたわけです。道の駅などで販売されている精肉も、これだけきれいに処理されていればジビエ肉が初めてという一般消費者にとっても大変ありがたく、消費拡大に繋がるはずです。
解体処理は時間との勝負ですが、肉質のチェックには細心の注意を払っており、A級品、B級品というおおまかな仕分けだけでなく、それらをさらに細分化して部位をわけて製品化しています。これは取引先のイメージに合わせて仕分ける作業だそうで、用途に合った肉を無駄なく提供することに繋がっています。
精肉度だけでなく、精肉前のチェック項目も非常に細かく設定されています。
肺、心臓、肝臓、など各臓器やその他の部位について、それぞれ5項目以上のチェック事項があり、破損以外の個体が本来もっていた病気や寄生虫などの有無を厳しく確認しています。これらの項目をたったひとつでもクリアできなければ精肉にはしていないとのことで、この点も「使いやすい肉」「安心してオーダーできる処理施設」という評価の所以です。
単なる害獣駆除であれば問われませんが、商品として出荷する以上は品質が重要であり、鹿は特に雌雄や季節により個体差が大きくなるため、安定供給は困難です。精肉精度を上げるということは、利益率が下がることでもあり、今度はB級品以下の商品化への注力が不可欠です。具体的にはこれまでのソーセージ類に加えて28年度から始めた燻製商品など、加工品のラインナップが増えており、小さな飲食店でも使いやすいポーションが受けています。
また、鹿皮製品などの新たなブランドの立ち上げも計画しているとのことで、松野ジビエがさらに地域の特産品となっていけるような、いろんな側面からの発信が期待できます。