県都に誕生した新しい処理加工施設のポテンシャル
※本文中に害獣の解体作業に関わる画像、映像がありますのでご注意下さい。
↓処理施設の解体技術とこだわりを動画でご紹介しています。
松山市八反地に2017年に開設された「高縄ジビエ」は地元「北条猟友会」はもちろん、多くの関係者の知恵と経験を持ち寄って作られた、これまでにない獣肉加工処理施設といえます。県庁所在地である松山市内に誕生した施設ということで、近隣の生産者や住民からも大きな期待が寄せられています。
食肉処理を担当している豊島さんは飲食店で働きながら、この施設でも重要な役割を担っています。高縄ジビエには解体ができるスタッフが4名、精肉ができるスタッフが3名在籍しますが、処理頭数が増えてくるこれからのシーズンはフル稼働が予想されます。
きっかけは猟師から託されたイノシシ肉を調理した経験からジビエの魅力にとりつかれ、自ら大三島の処理施設「しまなみイノシシ活用隊」に通いながら解体処理を学んだという豊島さん。大三島にはいない鹿の処理については、松野町の処理施設「森の息吹」の森下さんから専門技術を学びました。県内の先駆者たちの協力を得て、高縄ジビエの運営がスタートしました。
この施設の特長は、立地のよさと獣種の豊富さだといえます。
今治市玉川周辺から松山市内にかけての高縄山系で捕れたものが受け入れの対象となっており、将来的には東温市周辺までエリアが広がったとしても、その中心に位置することで十分に機能すると考えられます。中心市街地にはホテルや飲食店も多いため、新たなジビエ利用の検討にも繋がりやすくなります。
また、イノシシ、鹿だけでなく、アナグマ、ハクビシンなどの取り扱いもあり、もともとジビエ料理を提供していたお店にとっては品種の選択肢が増えることになり、好評を得ているとのこと。さまざまな獣種を柔軟に受け入れることで、空輸でしか手に入らなかった珍しいジビエが地元産として提供できる価値観が生まれました。
一般的にイノシシは秋冬、鹿は春夏が旬といわれます。また生態の違いから山間では鹿が増えるエリアからはイノシシが少なくなる傾向があり、両方をバランスよく取り扱うことは施設を安定して維持するためにも大変重要なメリットだといえます。
イノシシと鹿の解体にはいくつかの違いがあります。サイズや脂の乗りによって作業時間は変わりますが、皮はぎは鹿の方が比較的簡単で、部位分けはイノシシの方が楽だといわれます。鹿の脂はイノシシのように皮の裏に付いているのではなく、赤身を一枚挟んだ一層下にあり、部位分けには技術を要します。イノシシに比べて筋も多く、繊細な作業を心がけているとのことです。
また、出荷先の要望に応じて、半身、ヒレをつけたまま、など解体方法にバリエーションを持たせています。これは「しまなみイノシシ活用隊」と同じスタイルで、料理人さんとの連絡を密に取りながら、より鮮度の高い商品として提供しています。
この施設の設立は地域連携で取り組む「森の恵みプロジェクト」構想から発展したもので、加工や販売についてはある程度のビジョンが描かれていました。地域内に加工処理施設が不可欠だということで準備が進みましたが、一般的な施設に比べて非常に低予算だったことが特長です。関係する有志がすでにあった建物や中古資材を持ち寄り、保健所の協力も得て、運営に十分な設備を整えることができました。今後こういった形で地域内に処理施設ができることがひとつのモデルとなっていくと思われます。
コストの高い汚水処理設備についても、メーカーの協力を得て低コストでの開発に着手し、血液の成分を適正に分離するシステムを導入しています。地域全体で環境を守るという目的からスタートしたプロジェクトならではの先進的な取り組みといえます。
人材についても恵まれており、施設の代表である渡邊さんはしまなみイノシシ活用隊としての運営実績、営業力を発揮。解体や食肉処理については技術のあるハンターや最新技術を学んだ豊島さんがさらに研鑽を重ねています。意外に手が回らないといわれる在庫管理や発送業務、細かい事務処理についてはIT分野に詳しい山口さんが担当するなど、メンバーそれぞれの適性や経験を活かせる体制をとっています。
今後は未経験であっても、得意分野が活かせる職種のひとつとして、解体処理施設が位置づけられることになるかもしれません。