愛媛県農林水産部農産園芸課

『上島町獣肉処理加工会』越智郡上島町(弓削島)

 ジビエファイル  2017年10月24日

とことん熟成にこだわる島のプロフェッショナルたち

 

※本文中に害獣の解体作業に関わる画像、映像がありますのでご注意下さい。
↓処理施設の解体技術とこだわりを動画でご紹介しています。

今治市と尾道市の中間地点、約18の離島からなる上島町の中心である弓削島に平成15年に設立された加工処理施設を運営しているのは、島内の捕獲の最前線で活躍する熟練の地元ハンターたちです。もともと島には1頭もいなかったというイノシシが、特産である柑橘や農作物を荒らしはじめ、問題解決のために町が中心となって「ハンターの育成」を行いました。会長の尾野村孝さんは当時第一号の猟師となり、昼夜を問わず被害を出すイノシシを駆除してきました。

被害は年々増え、弓削地区では5名のメンバーが捕獲、解体にあたります。ピーク時には年間200頭を処理し、現在は徐々に捕獲頭数の減少(駆除効果)を実感しているそうです。

この施設のこだわりは受け入れの厳しさと品質向上のための熟成技術といえます。

搬入者はメンバーに限られており、食肉として処理するかどうかの見極めを尾野村さんらが行います。より品質の高い精肉をイメージした上で屠体の確認を厳密に行っています。

また、すぐに解体を行わず、最低10日間~通常2週間の「熟成期間」を設けています。約2℃の保冷庫を見せていただくと、中には洗浄後のイノシシが多数吊るされた状態となっています。

一般的に知られている獣肉の適正な処理は、生きたまま捕獲した後すみやかに止め刺しを行い、できるだけ早く「血抜き」をすることですが、肉そのものの解体も、時間をおかずすぐに行う方が「肉の鮮度が良い」「時間がたてばたつほど臭みが出る」という認識がほとんどだと思います。

ただ、実際に鮮度の良い肉を解体すると、獣臭さがひどく残っていて食べづらいと尾野村さんは言います。施設開設以来、この問題と向き合う中で、「より長く熟成させた方が臭みがなくなり、食肉としての品質が良くなる」という大原則を見出したのだそうです。

肉の熟成については近年少しずつ知られるようになり、家庭や飲食店でもドライエイジング等を取り入れる方も増えてきました。肉の水分を抜き旨みを凝縮させることはもちろん、肉自体が持つ分解酵素のはたらきで生まれるアミノ酸が肉を柔らかくし、旨みをさらに増すと言われています。
こうした場合、ブロック肉等では乾燥しすぎや変色などでトリミング量が増えてしまいますが、できるだけ大きな状態で、骨付き皮付きで熟成させることは、その効用を高めるだけでなくロスを減らすことにも繋がっています。

ロスを軽減するとはいえ、この施設の精肉度はとても高く、枝肉にする作業では相当な「ロス」をあえて作っているように見えます。傷や寄生虫はもちろんですが、打ち身により鬱血した部分や血溜まりは該当箇所だけでなくその周辺も大胆にカットし、破棄しています。徹底して臭いの原因を除去し、クレームを0%にしようとする姿勢は、尾野村さん自身が料理人であったという経験から。より使いやすく、安全で味のよい肉を提供するにはどうすればよいか、使い手の立場からも考えられた解体方法だといえます。

上島町と全日本司厨士協会愛媛県本部等の協力を得て、ジビエとしては大変希少な「生ハム」の加工品開発が進んでいるこの施設では、製ハム業者とのかかわりの中で、求められる肉質についての更なる学びがあったといいます。熟成させることがより加工品に向いた肉作りに繋がることがわかり、今後さらに開発を進めていきたいとの意欲が高まっています。

ジビエとして最も敬遠される「臭み」がまったくないことと、驚くほど柔らかな肉質で多くのシェフから高い評価を得ているこの施設のイノシシ肉を、実は上島町の子供たちは頻繁に食べているといいます。家庭料理としてではなく、地域特産品として学校給食で週に一度のペースでメニュー化されており、大変人気が高いのだそう。

料理人からハンターへ、そして解体処理のプロとしてさまざまな経験をつんでいる尾野村さんは、若手の育成にも力を入れており、今後、こうした子供たちの中から、島の暮らしを守る後継者が誕生することが期待できます。