愛媛の職人達の匠の技が結集。シカ燻製スモーク
↓愛媛県産ジビエ加工品の商品化までを動画でご紹介しています
愛媛県では、野生鳥獣による農作物への被害拡大にともない鳥獣害対策の一環として、県産獣肉の消費拡大及び県内処理施設の運営支援に取り組んでいます。特に、全国の獣肉処理施設では、ロース、ヒレなどの人気の高い部位は飲食店での流通が見込まれるものの、下級部位であるモモなどの赤身を中心とした部位は、獣肉特有の硬さ等から一般の料理では敬遠され、一部はソーセージ等に加工されるものの獣肉本来の特質が発揮できず消費は拡大していません。
そこで、獣肉の消費を拡大するとともに、各処理施設の運営を支援するため、2016年からスタートした愛媛県の獣肉加工品開発プロジェクトでは、第一段として松野産のシカ肉の加工商品の開発をテーマとしました。北宇和郡松野町の獣肉処理加工施設「森の息吹」では、部位別の精肉の販売に加えて、これまでにもソーセージやハムなどを製造し、地元の道の駅で販売しています。しかしながら全国的にもそれら商品の競合はすでに多くあり、地元の一般消費だけでは不十分。年間400頭を処理する同施設では、下級部位の流通拡大が運営上も大きなテーマとなっており、施設長の森下孔明氏も「ジビエ事業が成り立つかどうかは売れる加工品の商品化次第」としていました。
そこで愛媛県は、ホテル、飲食店でも使っていただける新たな獣肉商品の開発を、全日本司厨士協会四国地方愛媛県本部に依頼。また、既に肉加工では実績のある城川自然牧場をマッチングし、両者に支援を求めることにしました。
協会からこのプロジェクトの担当として指名を受けた当時の四国地方本部会長で、30年以上にわたって県内の洋食業界をリードしてきたレストラン門田代表の門田征吾氏は、一般的な豚肉とイノシシ肉では、料理にすると似ているように思えるが、加工品となるとその肉質が大きな差を生むこと。また人間が管理できない自然環境の中で育つイノシシやシカは、雌雄や年齢によっても筋繊維や味わいがまったく異なること。つまり、より多くのサンプルで試作を重ねて、飲食店でも使えるジビエらしさを感じられるスモークを作ってはどうかという提案がありました。実は城川自然牧場の設立時にも、門田氏のアドバイスがあったそうで、20年の時をこえ、また新たな商品作りが始まることになりました。
試作は城川自然牧場で使っていた豚肉用のものとは別の、シカ肉の特長に合わせたオリジナルのソミュール液を調合。城川自然牧場のドイツ製燻製機を使って試作を繰り返しましたが、マイコン制御の燻製機であっても、豚とは違うシカ肉の状態を見ながら、細かい調整をしなければ失敗してしまうことがわかりました。その結果、長年培ってきた、職人の技術が活かされた商品となりました。
また、数種類の試作品は愛媛県食品産業センターで、成分分析を行いました。ジビエ食材ならではの特性や、新たな可能性がないかどうか、そしてそれらをどう活用すれば効果的かを細かく研究しました。研究にあたった玉井敬久研究員によると「もともと低脂肪で高たんぱくなヘルシー食材であるシカ肉の味がさらに深みを増しており、新たな価値感が期待できる。」とのこと。
試作品は、全日本司厨士協会愛媛県本部の役員に試食されるとともに、実際に役員により一般客への提供も始まり、さまざまな評価を得ることとなりました。
協会役員からは「味として完成しているので宴会等でも利用しやすい」「国産ジビエへの期待が大きいのでどんどん普及してほしい」などの意見が出される一方で「料理に使うには味が完成され過ぎている」「シカ肉特有の風味が消されている」などの現実的な厳しい声もいただきました。
そこで、更に「飲食店でアレンジできる」「ジビエの風味を感じられる」商品として改良を重ね、2016年の9月、全日本司厨士協会愛媛県本部総会において、全国から集まったプロの料理人150人を対象に新商品を発表するとともに試食会を開催しました。その結果、県内では道後温泉ふなや、東京第一ホテル松山などの有名シェフの評価を受け、定期的な取り扱いが始まり、少しずつお客様の口に届いています。今後はシェフの要望に沿った味付けに対応するなど、「鹿肉スモーク」の利用シーンを新たに創出するなどして、これまでの販路とは違った分野への訴求や、更なるおいしさを追求する活動が続いています。