夏の西日本豪雨災害では西予市内の多くの山林で山肌が流され、農道や獣道が壊れただけでなく、くくりワナ等の仕掛けも流された地域の改修にも行けない状態が続いています。夏の間のイノシシの搬入はほとんどなく、近隣に足跡すらなくなったとのこと。それぞれは小規模であっても被害地域では環境そのものが変わってしまったことに害獣も敏感に影響されていることが伺えます。
「もともと夏場はイノシシの被害は少ない。秋になり徐々に戻ってきた感じで、2月以降は筍が豊富なので、活発に動きはじめるんじゃないかな。」という駄場さん。この夏は加工品の開発に力を入れていました。
内子の「からり燻製工房」へ製造委託したハム、ソーセージ、フランクフルトは「媛っ猪(ちょ)ハム」というネーミングで製品化。当初、豚肉と同じ製法で試作した際、ミンサーが細かすぎて「魚肉ソーセージ」のような仕上がりだったため、粗めの肉粒を混ぜることで野生的なイノシシ感を出すことにしました。
フランクフルトにはぼたん脂を加えて既存品との差別化を図り、香辛料を抑えることで飲食店でもアレンジができ、メニュー化しやすい商品を目指しました。地元道の駅をはじめ、「マルハフーズ」の協力を得て全国のスーパーへも卸売が検討されています。
これらの加工品開発や精肉卸について、地元企業との協業もスタートしました。通常一人体制で解体や出荷を行う駄場さんに代わり、販売だけでなく情報発信などの営業業務全般を委託されたのが、株式会社アップトゥーミーの泉原社長。西予市出身でお父さんは猟友会のメンバーでもある泉原社長が手がけるのが、地元西予市で獲れたイノシシの脂を使った化粧品です。
「TAON(タオン)」は国産イノシシの脂(ぼたん油)で作られた、自然で浸透力の高い保湿オイルで、脂の酸化を防ぐ天然ビタミンEをわずかに配合した以外は合成保存料や着色料、香料までも不使用。用途や対象を選ばない安全な商品づくりは容易ではありませんでした。
これまでイノシシ脂を使った化粧品はなく、新たに製造できるメーカーを探しあてたものの、圧倒的な原料不足に直面。年々駆除頭数は増加していても、ほとんどの脂が廃棄されていたからです。ふるさとの自然環境を守りたいという思いから、地元の猟友会や愛媛県内の各解体処理所との連携を作り、脂の収集をスタートさせました。クラウドファンディング等を通じた情報発信も功を奏し、現在は自社サイトをはじめとするネット販売やイベントへの出展などで支持を広げています。
ししの里せいよからは、原料として精肉では食べられない背脂と内臓脂肪(内臓と肉の間にあるラード)の両方を提供しています。
肉に近い部分の背脂からの切除部分は加工食品にも使うため、現在は1000円/1㎏で出荷。それぞれの脂からオイルにできる成分は80%ほど抽出でき、歩留まりはよいとのことですが、120㎏のイノシシから取れる背脂は約5㎏、ラードは約2㎏とごくわずかで、冬場でなければさらに減少します。オイルの製造には300㎏の脂が必要で、50㎏のイノシシだと100頭以上を解体処理しなければなりません。
駄場さんは「西予市の捕獲隊は120人いますが、こうした利活用に積極的に取り組む機運はまだまだこれからという感じ。解体するたびに脂を冷凍保管する手間を勘案しても、廃棄するよりは良いという意識が広がるようにしなければならない」といいます。
「この施設も指定管理3年目となり、利益を確保する仕組みを確立する足掛かりを築いていかなければならない。市民に何かを還元できる活動をしなければ。」穏やかではありますが、一歩ずつ確かな前進を目指しています。