愛媛県農林水産部農産園芸課

『上島町獣肉処理加工会』越智郡上島町(弓削島)

 ジビエファイル  2019年02月03日

この日の貯蔵庫には3頭がぶら下がっており、上島イノシシの最大の特徴である「熟成」の最中でした。
「見た目の大きさが違うと思うでしょうが、これら全て同じ重量(60kg)でした。大きく見えるオスはやせ細っていました。この時期のオスとメスでは肉付きというか肉感が全く異なり、改めて獣肉の難しさを感じています。」と話す尾野村さんですが、昨年末は山へイノシシの見回りに行った際、転んで首をひねったことから入院生活を余儀なくされていました。

「ふるさと納税や新聞などでも紹介してもらい、おかげさまで全国から注文は沢山頂くのですが、全てお断りしなければならない状況でした。加工会のメンバーは高齢者が多いので、こうしたリスクは避けて通れない問題だと痛感します。」

上島町獣肉処理加工会の2018年のイノシシ処理頭数は、昨年実績の1/3にとどまります。夏の災害の影響が大きく、多数の道路の陥没や土砂崩れがいまだ手付かずのままで、ワナにかかっていても回収に行けない状態が続いているといいます。尾野村さんが狩場としていた三石林道も両端が崩れて通行止めとなり、現在はバイクで見回るのが精一杯です。

上島町農林水産課の久保係長によると「もともと斜面が急で、年々整備はしながらも今回の豪雨には耐えられなかった。国費投入は来期以降の見込なので、修復が進めば捕獲数も回復してくるとは思うのですが、今は安全に行ける場所までワナを仕掛けに行き、できる範囲で回収していただいている状況です。」とのこと。
県内の他地域のように、災害によって餌場が流れたからといっても大きな移動はできず、逃げ場は海しかない弓削島のイノシシ達。例年に比べて隣の生名島での捕獲数が急激に伸びており、橋を渡ったり海を泳いだりして島から脱出した形跡があるとのことです。

昨年開発したイノシシ生ハムが好評で、監修した神原シェフの勧めもあり新たにソーセージの開発が始まりました。製造元の松阪ハムでも評価が高く、原料の追加依頼はありますが、夏以降は十分に確保できない状況に悩まされています。熟成肉の特性を生かしたボイルハムも味は上々でしたが、精肉率の低さや保存性など商品化にはいくつかの課題があります。しかし、大三島のラーメン店からしし骨の提供依頼があるなど、徐々に県内外での連携が進み始めています。

地元の宿泊施設「インランド・シー・リゾートフェスパ」でも新たに熟成猪のメニュー開発が進んでいます。
三好支配人は「以前は陶板焼きで提供していましたが、素材の良さを活かせていませんでした。島ならではの新鮮な魚介を求めて来られるお客様が多いのですが、この上島熟成猪はポピュラーではないだけに、さらにレアな「地もの感」が出せると考えています。岩城特産のレモンなどと組み合わせて、島でしか食べられない特別な料理を楽しんでもらいたいです。」と意気込みます。

「お客様の声を聞きながら、仕入れの確保が出来次第、春以降メニュー化したいと考えています。」

味噌仕立ての「ぼたん鍋」と「つみれ鍋」はどちらもレモンの風味が特徴的で、女性をターゲットにした爽やかな味わい。熟成肉は臭みが全くありませんが、さらに違和感なく食べられる仕上がりとなっています。

今後の捕獲数増加には、新たな担い手の確保が急務。上島町では狩猟免許の取得を全額補助という形でサポートしており、今季は過去最高の8名が取得。新規に4名が活動を始めた魚島には尾野村さんが仕掛けから回収までの指導に赴き、すでに15頭を捕獲しました。

個人の漁船でなければ弓削の処理場へ運ぶことができず、島内消費か破棄が現状ですが、久保係長は、今後はなんとか集約できる方法を模索したいと話します。
「ジビエ事業は根気のいる仕事ばかりですが、尾野村さんたちの卓越した捕獲の技や精肉技術を伝承しなければならない。弓削島でも20歳代の地域おこし協力隊員が免許を取得しました。やる気があれば、ぜひ育てていきたいと思っています。」