愛媛県農林水産部農産園芸課

『ししの里せいよ』西予市野村町

 ジビエファイル  2017年10月26日

ジビエで地域とともに究極のハードルへ!

 

※本文中に害獣の解体作業に関わる画像、映像がありますのでご注意下さい。
↓処理施設の解体技術とこだわりを動画でご紹介しています。

公営としては愛媛県内で最も古い獣肉加工施設であった「ししの里せいよ」は、株式会社野村町地域振興センターが管轄することになり、2017年から駄場英之さんが支配人としてこの施設を任されています。この地域で数多くのいのししを捕ってきた猟師の経験をいかしつつ、流通にかなう精肉としての基準を満たすための「独自の解体処理技術」を確立しようとしています。

これは駄場さんが作ったいのしし搬入口。ここから「生きたまま」のいのししを受け入れています。
この処理施設のこだわりは、山で止め刺しし息絶えた後の屠体ではなく、まだ激しく動き回る「生体」での搬入を推奨している点です。

軽トラからいのししを誘導すると、それほど幅が広いわけではない中央の檻の中へすんなり入るそうです。処理場の方向へ頭を向けたまま、いのししの身体がセットされた状態となります。

今度は頭の側から長崎県とメーカーが開発したものを応用したオリジナルの電殺器を差し込むことで心停止させ、速やかに内臓を抜きます。猟師時代は仕留めた獲物の腹膜に穴を開け、冷たい川に浸けておくことが常だったそうですが、すぐに腹部がパンパンに膨れ上がっていたそう。解体後に肉(特にバラ部分)に臭いが残ることがずっと気になっていたという駄場さんは、心停止後約1~2時間で胃腸から醗酵が始まり、腹膜に空けた穴だけではそのガスが抜けないことが原因だと気がつきます。実は横隔膜から下部の腸周辺から匂いが出るため、昔ながらの処置では食肉として100%の品質にはならないと悟ったのです。

生体搬入にこだわるのは、死後ではわからない怪我や病気の見極めができるため。どんな状態で心停止したのか不明なものをできるだけ持ち込まないことも重要ですし、屠体搬入の場合でもハンター自身にその意識を高くもってもらわなければ、品質の維持は難しいといいます。

もうひとつのこだわりは「熟成」。

開腹して皮はぎした個体はそのまま数日間冷蔵保管してから解体をしています。
死後硬直が解け、肉の旨みが生まれる頃合まで解体しないことは、猟師時代には経験がなかったこと。実は駄場さんは施設運営にあたって、豚(家畜)の解体処理を学んでいます。豚の解体としては県下一の技術を持つといわれる大洲市の株式会社JAえひめアイパックスで研修を受け、血抜き、皮はぎから、一連の解体方法を教わったのだそう。

アイパックスでは豚の筋弛緩が始まるまでマイナス5℃で4日間保管しており、この施設でも同様の手法を用いることにしたそうです。それ以外にもアイパックスの豚の解体処理技術に準じる形で適切な処理をしている点は、他の獣肉処理施設ではあまり見られない特長といえます。

実は「血抜き」にも駄場さんが驚くコツがありました。
一般的に山で血抜きを行う際は、頚動脈(首のあたり)を切りますが、豚と違っていのししは肩から首が太く詰まっており、正確な場所を切るのが難しいと言われます。そのため人によって(技術の差によって)抜ける血の量に差が出てしまい、結果として肉の品質を左右していました。

アイパックスでは血抜きに「食道」を利用。喉から約5センチの幅の食道に沿って柳葉包丁をいれ、その先にある心臓の欠陥を直接刺すことで食道から血液を出しています。皮膚から頚動脈を切った場合、その肉の間を通って血液が流れることになり、環境によっては血が凝固して循環が悪くなる可能性があることを、経験上わかっていた駄場さんは、この方法(血液の出口が皮膚に空けた穴でなく、もともとある食道)が最も効率的だと、大変腑に落ちたといいます。

構造はほぼ同じながら、いのししの食道は豚より少し細いため、ナイフも少し細めを利用しています。

猟師時代に気になっていた腹部の臭気についても、横隔膜からしっかりと内臓を取り出すことで防げることが豚の解体処理方法を学ぶことでわかりました。他の処理場ではあまり見られなかった、解体前に表面に残ったわずかな被毛を拡大鏡とピンセットで一本ずつ探して取り除くという作業も、衛生面に高いこだわりをもつ施設での研修で学んだことでした。

50kg以上の個体でないと味が乗っていないため、原則受け入れをしていません。一般的に幼獣は味が淡白で食べやすいが、「いのししとしての魅力がないから」と駄場さんは言います。

肉の卸し先としては、野村を中心とした西予市内の飲食店が一丸となって協力をしています。

野村農業公園「ほわいとファーム」では、肩ロース、ミンチ用の肉を主に活用し、オリジナルメニューとして提供しています。同店の売りでもある「チーズ」との組み合わせは、大変好評とのことです。

乙亥会館地下にオープンしたコミュニティカフェ「こじゃんtea」では、「せいよ田舎で働き隊」として着任した千葉さんが試行錯誤の上開発した、猪骨スープと猪肉チャーシューの「乙亥らーめん」の提供を開始。地元産の野菜と独自のスパイスを豊富に使った「乙亥カレー」とともに、常連客に好評を博しています。

道の駅(どんぶり館)では冷凍の精肉を販売するなど、まずは地元で普及させ、地域全体で盛り上げるという動きが見られます。

いのししは豚と似ていても、食材として捕らえるとまったく同じではありません。豚肉の代用品ではなく、いのしし肉だけのオリジナル料理を開発しないと、本当の価値は生まれません。田舎では以外に高齢者が獣臭さなどを嫌がる傾向があり、家庭で普及しなかったと言われます。今後この地域の獣肉が、住民にとっての身近な食材として定着するかどうかは、このような「いのししらしい料理」を地域資源としてアピールし続けることもひとつの方法といえます。